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Thule Magazine vol.1 Rhizomatiks ファウンダー 真鍋 大度Daito Manabe

東京を拠点に活動するアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマー、DJ。2006年にライゾマティクスを設立、2015年よりライゾマティクスリサーチを石橋素と共同主宰。Bjork、OK Goなど海外の著名アーティストとのコラボレーションや国内ではPerfumeのライブ演出の技術サポートなどを手掛ける。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動している。

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作り手として
どれだけ人の心に
残るものを作るか

「メディアアート」とは

真鍋さんのお仕事を教えていただきたいです

-プログラミングなどの技術と音楽や映像を掛け合わせて作品を作るアーティストであり、プログラマーをやっています。画家が絵具や筆を使って絵を描く代わりに、僕の場合はプログラムを書くことで作品を作るという感じですね。

メディアアートとは

-メディアアート自体はそれこそ70年代からありますが、僕が興味を持って勉強し始めた2000年代前半と今とでは対象も意味合いも全く違ってきているように思います。

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それはどのような変化でしょうか

-もともとはメディアに対する批判とか問題提起から始まったんですよね。初期はテレビの様に一方通行の映像メディアに対するアンチテーゼとしてインタラクティブな映像作品が生まれたり、インターネットの登場によってテレコミュニケーションの在り方が変化することへの問題提起を目的に作品を作る、というようなものでした。それが今ではもうエンタメ的になっていますよね。僕がやっていることの中にもテクノロジーの魅力をわかりやすく伝えるエンタメ的なもの、役に立つツールなどユーティリティ開発、美術館で展示するような問題提起型のものがあります。例えばエンタメやポップシーンでやっていることを自分たちは「インタラクションデザイン」と呼び、メディアアート とは言っていない。ただ、その辺を厳密に区別して呼び分ける必要はなくて、「メディアアートというのはこういうもので、起源はこれで〜」のようなことを定義するのはナンセンスなのではないかと思っています。それぞれが自由に解釈してくれればいいと思っています。既得権益を守るために排他的になるのではなくオープンでいたいと思ってます。

昔と今で伝えるものが変化したからこそ、それぞれに解釈を委ねているんですね

-僕自身、人前で話す機会もそれなりにありますが、やはり僕は評論家でも批評家でもない。自分たちの作品を見てもらって、鑑賞者には自由にいろんなことを感じてもらえるといいなと。一方でキュレーターの方に自分たちでも気がつかなかった価値観や解釈を見出してもらえることもあります。批評文化のようなことはアートではとても大事ですし、自分たちの作品が批評されることで気づくこともたくさんありますが、自分の活動としては表現する側でいたいと思います。

生い立ちと現在の肩書きのミスマッチさが魅力だと思うのですが、そういった考え方にもストリートやヒップホップの影響を感じますね

-たしかにそうかもしれないですね。僕のルーツはストリートカルチャーの中にあると思っています。青春真っ只中の90年代後半は、多感な時期を過ごしたので。当時スケボー仲間の中で数学を勉強していたというのも珍しかったと思いますし、DJをしていた時も、休みの時間は裏でテスト勉強や数学をしたりしていました。

どれだけたくさんの人に自発的に振り返ってもらえるか

制作する側としては何を心がけているのでしょうか

-僕たちの作品の本質を本当の意味で理解しているのはライゾマティクスのチームで、メンバーのみんながモチベーションを高くすることも大事です。自分はもちろん、みんなにとっても本当にいいと思うものを作っていけるといいなとは常に思っていますね。

実際に作品を見た人が感情だけでなく身体も動かすこと、これは本当に難しいことだと思います

-例えば動画でも今はTikTokが出てきて10秒くらいの動画コンテンツがとんでもない数ありますよね。10秒の動画でも3秒見てつまらなかったらスキップするような時代なので、本当に受け手側に選択肢がたくさんあって、コンテンツはわかりやすく短くなっている。そんな時代に2、3時間部屋の中に閉じ込めて、自分たちの表現を見てもらうって本当にすごいことだなと思います。かと言って飽きさせないように最初から最後まで詰め込んだらいいかというとそういうことでもなくて。やはり余白をたくさん作っておかないと、観終わった後に考える時間が作れなかったりする。コンテンツや作品を作った時に思うことは、作品を観てくれた人がどれくらい自発的に振り返って作品のことを考えてくれるか、それが多ければ多いほどうまくいったのではないかなと思っています。

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それはやはりテクノロジーを駆使して惹きつけるのでしょうか

-観た瞬間に「おっ!」と思わせるのは手品的な、割とテクニカルなやり方でできてしまうのですが、余韻みたいなものをどれだけ持ち続けてもらえるかというのはテクノロジーとは関係なくて。いつもどうしたらうまくいくかなというのを考えています。それこそ極端な話、音楽でもジョン・ケージの4`33”という作品がありますが、4分33秒演奏しない、みたいなことがその後歴史に残る作品になったりしますし、自分の作品を観た人がそれをきっかけに今後やりたいことが決まった、と言ってくださることがあります。これからもそういう作品を作っていきたいなとは思いますね。

コロナ禍で意識していた、制作の灯を消さないこと

新型コロナウイルス流行後に何か気づいたことは

-リモートで何かするということが当たり前になったことで、これまで自分たちがやってきた価値観に様々なシーンが近づいてきたなということはと感じつつ、早く現場でやりたいという気持ちが日々強くなっています。いつもだと室内にこもって制作して発表する時には大きいホールで大きな映像と音で、というようなひとつのゴールがあり、そこには快感も感動もあると思っています。今は最後まで室内で、という感じで僕としては物足りないので、早くなんとかなってほしいですね。

ライゾマティクスの花井(裕也)さんが開発された「メッセージング マスク」も一つの可能性として象徴的かと思います

-そうですね。今はまだいろいろと模索中でまだ決定的なものはないですし、これからもまだまだ辛抱みたいなところはどうしてもあるかと思います。

模索される中で意識されていたことはありますか

-制作の灯を消してはいけないなと。自分自身もそうですし、会社の仲間たちに対してもそうなのですが、こういった状態で様子見状態に入ってしまうと、他の人たちが作っているのを見てすごくモヤモヤするのではないかなと思いました。そういったこともあり、いち早くできることからやっていこうと。未熟で中途半端なものになることははじめからわかっていましたが、とりあえず灯を消さないようにと続けてきました。それが良かったかどうかもわからないですが(笑)。これまでいろんなことをやりすぎたなと思う部分もあったので、しばらくはゆっくりペースにするのもいいかなとも思いました。

それは何がきっかけで感じられたんですか

-今は割と普通の生活ができていますが、それまでは本当にひどかったので。皮肉なもので、先日人間ドックを受けたら全ての項目においてこの10年間の中で結果が一番良かったという。あと、忙殺されていると本当に新しいことにチャレンジしたり学ぶ時間が取れなくなってしまうので、これくらいのバランスがちょうどいいなと思いながら作業をしています。

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新たな形式で挑んだパリコレ

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そんな状況の中、全ブランドのショーが初のオンライン配信となった異例のパリコレでの発表もありました。どんなことを意識されたんでしょうか

-ランウェイというテーマは残したまま、リアルとバーチャル両方のいいとこどりというか、中間あたりのことをしようとしました。現場でファッションショーを観るのは飽きないと思いますが、7分とか10分のランウェイ映像を幅広い層に対して飽きさせないようにしようと思うと、結構難しいなと。なのでそういう意味では音楽をかなり作り込みました。身体で音を聴かなくなってしまったので、鼓膜で聴く音楽を作る。ディスプレイやヘッドホンで観て聴いた時に一番良い状態は何か、というのを意識して作りました。苦肉の作という感じではありますが(笑)。やはりリアルには敵わないという大前提を忘れてはいけないなと感じました。

発想法はヒップホップともリンクするサーベイとインプット

真鍋さんの発想法は

-とにかく自分の中にいろんな情報をインプットしまくって、何かお題が来た時に自然とアウトプットできるような状態にしておく、というところでしょうか。お題を聞いた瞬間にパッとシステムが思い浮かんでどういった作品になるのかすぐにわかる時もあれば、それが出てから実際のエクスキューションまでがうまくまとまらないこともあります。

着想源は

-今だとこのサイトがまさにそうで、これは1,000ページくらいあるのですが、とにかくリサーチを重ねて、それでも出てこないようなことをする、というのが基本です。メタデータを丁寧につけることで後でパッと検索できる様な仕組みを作っています。といってもScrapboxを使っているだけですが。
古きを温ね新しきを知る様なメソッドはヒップホップの時に養った感覚に近いかな思います。90年代のヒップホップ、特にBoombapと呼ばれるスタイルにはJazzやSoulなどの元ネタがありますよね。僕はその元ネタマニアで95年には大学のパソコンを使って元ネタをシェアする掲示板を立ち上げたり本を作ったりしていました。論文を掘ったり学会の講演映像を見るのはそういったものに近い感覚があります。

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バックパックに求めるものは便利さと安心感

元々国内外問わず外に出ることが多い真鍋さんですが、移動の際持ち歩くバッグに求めるものとは

-ポケットが多くて整理しやすいもの、たくさんものを入れてもすっきり収まるものが好きです。気に入ってずっと使っていたものがあるのですが、THULEのバッグもすごく便利設計だなと思っています。特に良いのはクッションとポケット。パソコンを安心して入れられます。小さいケースもケーブルや小物を入れたい時に便利ですね。

真鍋さんが普段必ず持っていくものはなんでしょうか

-パソコンとハードディスク、イヤホンとヘッドホン。今は通話が多いのでマイクも持ち歩きます。あとはWindows用のマウスと充電系。機材系はマストですね。あとはポラロイドカメラとか、カードケースやコード類をまとめるケースも持ち歩いています。

どんな未来でも制作の灯を燃やし続ける

最後に今後の展望を教えてください

-3ヶ月先がどうなるかもわからない状況なので、何か新しいことを積極的に作っていくというよりは今やっている活動を現状維持していけるといいなと思っています。この状況が収束してこれまで通りリアルスペースで何かできるようになっても活動できるようにするし、しばらくバーチャルの世界が活動の舞台になる可能性として0ではないと思うので、それはその時々に合わせて。どんな状況になっても活動を続けられるように準備していく、という感じです。

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