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Thule Magazine vol.3
写真家公文 健太郎Kentaro Kumon

1981年生まれ。雑誌、書籍、広告でカメラマンとして活動しながら、 国内外で作品を制作中。写真集に『大地の花』(東方出版)『BANEPA』(青弓社)『耕す人』(平凡社)『地が紡ぐ』(冬青社)『暦川』(平凡社)などがある。2020年12月に『光の地形』を刊行予定。

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旅と写真を通して
点を打ち、
紡いでいく

始まりはネパールから

写真家としての公文さんのお仕事を教えていただけますか

-写真家としての僕の仕事は大きく言うと2つで、1つは作家的な活動、写真家としての作品を作っていく仕事です。ほぼ毎年、写真展の開催と写真集の出版を行っています。もう1つは作品を見てご依頼をいただき、撮影をする仕事です。
どちらも旅に出る仕事が多く、365日のうち300日くらいは地方に行く仕事で東京の外にいます。

写真との出会いはいつごろだったのでしょうか

-子供の頃は写真や芸術とは無縁の生活でしたね。高校の寮の同級生にネパール人の留学生がいて、高校3年生のときにその友人の実家へ遊びに行くことになったんです。そこでネパールの魅せられる風景に出会ったのが最初のきっかけです。自分が写真に撮りたいと思うものが先に出てきたことと、当時のシャッターと絞りを自分で調整しないとちゃんと映らないカメラが面白くて始めたという感じです。

最初は独学だったのですね

-写真やカメラの技術とは関係のない学校に通っていたので、高校時代のネパール旅行がきっかけで写真を初め、それから独学で勉強を始めました。大学入学後も、在学中の4年間の間にトータルで1年間くらいネパールに通い続けて写真を撮りました。その後、大きな個展を大学卒業のタイミングで開いてから師匠の元につき、しっかり写真の世界に足を踏み込んだという感じですね。

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「人の営みがつくる風景」というテーマについて

公文さんの作品には「人の営みがつくる風景」というテーマがありますが、それはどのようにして決まったのでしょうか

-先ほどのネパールの魅せられる風景というのが、日本の田舎を思わせるような田園風景だったんです。日本を撮るようになってからも、美しいと感じる風景のほとんどが里山の風景でした。そんな自分が好きな風景を一言で表した言葉が「人の営みがつくる風景」だったんです。国は違えど、自分にとって落ち着く場所の風景が好きで、今もそこに通いたくて写真をやっています。

それ以来、作家としての作品づくりも熱量高く続けてらっしゃいます

-どんなに忙しい仕事に追われていても、必ず自分の時間をとって撮りたいものを撮りにいくということを写真家になったときから続けています。写真集を作ったり個展を開くことも必ず継続してやっていく。見てもらうためにやっているわけではないその活動を誰かが見てくれていて、結果的にそれが今に繋がっている感覚があります。

大きな転換期となった「3.11」

写真を初めてから一番思い入れの強い出来事は

-やはり東日本大震災ではないでしょうか。写真に日本を収めるようになった大きなきっかけでもあります。震災から3週間ぐらいが経った頃に、現地を取材してほしいという依頼があり現地に赴いたのですが、何も撮れなかったんです。もちろんいただいた仕事はやり切りましたが、そのときに「自分の生きている国のことをなにも知らない」という事実に気づかされました。この場所にどういう人が住んでいたのか、どういう風景が広がっていたのか、どういう歴史があるのか、つまりは「東日本大震災によって何が失われてしまったのか」ということがわからなかったんです。そんな状態でカメラを構えると、撮った写真がどれも物語を感じさせない写真になってしまうんです。そんな経験をしたことで日本を旅しようと思い、今のテーマを明確に決めました。

3.11が「人の営みがつくる風景」というテーマを決めるきっかけにもなったということでしょうか

-そうですね。「土地と人のつながり」というか、日本という国が日本人を作り、日本人が日本の風景を作ってきた。その代表が農業の風景。日本の農業は今が変革の時だと言われていますが、変化とともにいずれ日本の農風景も変わっていきますよね。ということは、東日本大震災によって流されてしまった風景と一緒で、自分が知らないまま終わってしまうんだなと。そう思ったときに、今自分が歩いている場所のことをもっとちゃんと知りたいなと感じたんです。

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まさに写真に導かれているような感じがします

-特に去年やった「暦川」というシリーズは、「北上川」という東北の川を上流から下流まで降りながら写真を撮る仕事だったのですが、最後が石巻という被災地だったんです。8年ぶりに訪れたときに「帰ってきた」という感覚になりました。石巻は東日本大震災のときにも取材に行っているのですが、8年経った石巻の河原で歌を歌っている方から「震災のときには駅前で歌っていたんだ」なんて話を聞くと、その場所に帰ってきた意味を感じますし、当時自分が撮っていた川の意味合いも変わって見えていきました。東日本大震災については海や津波の話になりがちですが、よく考えればそこで流されたものは川に堆積してできていて、川も同じように洪水を起こして肥沃な大地を作っている。みんな繋がっているんだということが見えた仕事でした。

写真を通して様々な体験と気づきをを得ているのですね

-写真がなかったら東日本大震災や日本の土地にも関わることがなかったので。写真があってよかったなと思います。旅自体も写真がなかったらしてなかったんじゃないですかね。写真がきっかけでいろんな人やものに出会わせてもらったと感じる経験がたくさんあります。

写真の魅力は「余白」

写真の魅力についてはどのように考えていますか

-写真って、撮ったらまず自分の手元に残りますよね。そしてその写真を見た人が解釈を広げてくれるんですよ。写真の中にあるメッセージやストーリーは見る人が感じて決めることだと思っているので、自分が何を表現したいかということはあまり言葉にしなくてもいいと思っています。例えば僕はこういう写真がすごい好きなんです。
これは下北半島の写真なのですが、この写真について僕が背景を説明したら1つのストーリーが出来上がりますし、説明をしなかったとしても写っている風景に対して「なんだろう?」とか「この自転車はどうしちゃったんだろう?」ということを想像すると思うんです。実際に僕が旅をして目の前の現実を写してきているからこそ、見る人それぞれがストーリーを広げて完成させてることができる。そこが写真の魅力だと思っています。

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解釈の余地を残すために意識されているポイントは

-いろいろあるのですが、写真ってどれだけ鍛錬をしても撮るときにはカメラが間に入るので、カメラの影響を非常に受けるんです。例えば古いカメラだと今のカメラと比べて面倒な作業が多いですよね。その作業に時間がかかっている間に相手と距離ができたり、タイミングが外れるんです。自分で意識的に外すのと、無意識的に外れるのではその「間」のできかたがまったく違う。この2つの古いカメラは妻からプレゼントしてもらったものと僕の師匠からいただいたものなのですが、師匠からは「決まりきった写真を撮らないようにこういうカメラを使いなさい」と渡されました。そこから撮る写真がかなり変わりましたね。

さらにカメラだけではなくバッグ一つでも変わるんです。たとえばこの使い込んでいるバッグはカメラバッグじゃないんですよ。僕の場合はこのバッグにカメラ一台と、予備のバッテリー、水、そこにサブのカメラを入れるか入れないかみたいな状態で旅をするんです。そのスタイルで行くと、いい意味で諦めがつくんです。制限の中でどうするかを考えるしかない。その過程で生まれる足りない部分が見る人にとって入り込む余地を生むのかなと思っています。

バッグに大事なことは愛着

公文さんのバッグへの思い入れを教えていただけますでしょうか

-バッグは好きでとにかくたくさん持っているんです。これは僕が写真で新人賞を取ったときに父親がプレゼントしてくれたものです。バッグだったら一生大事にできるし思い出に残ると思い、プレゼントしてもらってからいろんな場所へ一緒に行きました。
これはいつも重いものを背負うのでストラップがしっかりしているところが理想的。デザインもよくて、使っている間にだんだん味が出て愛着が湧きそうだなと感じ選びました。
長く使っていると壊れてしまうバッグってたくさんあるんですが、THULEは頑丈なところも魅力的です。カメラバッグの中にもカメラのことを大事に考えていないバッグってあるんです。一番わかりやすいのは底面。このバッグはデフォルトで底面にクッションが入ってるんです。カメラをそのまま入れても、底面がしっかりしていれば問題は起きない。こういう仕様でカメラのことを考えてるということが一発で伝わってくるんですよね。都内での打ち合わせの際にもカメラとPC、ハードディスクを入れて使っています。

このバッグは現場が厳しい環境だったりして、撮るものがもう決まっている場合にカメラ1台とレンズ1本を持って行くときに使います。あとは現場のサブバッグとしても重宝していますね。街歩きする際もあまり大きいバッグを持っていると警戒されてしまうので、これくらいのサイズのカメラバッグは助かります。愛着を持って大事にしていけそうなバッグかどうかは選ぶときにも大事な点です。特にTHULEは、写真家として別注したいほど、安全面やしっかりした作りに信頼を置いています。

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今後も様々な“点”を写真で紡いでいく

公文さんの今後の目標とは

-土地と人との繋がりというテーマで「農」が来て「時」が来て「川」が来て「半島」が来て、次何を撮るのか。旅をすることで日本を多面的に見て、点を打っていくことがとても大事なんです。例えば行く先々で出会う農家の方々に、農業の作品のときに得た知識をお話すると「よく知っているね」と皆さん話を聞いてくれるんですよね。そういうところから始まり、全ての点が繋がっているのでこの仕事はこれからも続けていきたいです。さらに土地と人だけではなく、今後は文化や美意識についても取材をしていきたいなと考えています。僕の作品は日本の文化や歴史を写しているので、コロナが落ち着いたら海外の方にも作品を見てもらえる機会を持ちたいなと思っています。