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Thule Magazine vol.6
建築家/起業家谷尻 誠Makoto Tanijiri

建築家/起業家。1974年広島生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co., Ltd. 代表取締役。大坂芸術大学准教授、広島女学院大学客員教授、穴吹デザイン専門学校特任教授。共同代表の吉田愛とともに、都市計画・建築・インテリア・プロダクトに関する企画、設計、監理、コンサルティングなどを行う傍ら、社食堂やBIRD BATH&KIOSKを開業、絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、tecture、Bypassなどを起業する。

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使命感を持ち、
楽しみながら
固定観念を
壊していく

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もっとこうした方がいいと思ったことを一つ一つ積み重ねる

建築家としての谷尻さんのお仕事を教えていただけますか

-基本的に自分がやっていることは建築と設計です。その中でプロダクトを作ったりもしますし、起業したりといろいろしています。

建築家として活躍される中で、これまでにない取り組みもされています。そのモチベーションは

-「足りてない」とか「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」とか、問題を解決していくことももちろん仕事の中には重要なんですが、もっと大事なことは問題提起することなんじゃないかと考えていて、それを一つ一つやっている感覚です。

谷尻さんの活動の根底には「もったいない」というのがあるのではないかと感じています

-確かに「もったいない」という表現も当たってるかもしれません。「あったらいいな」、「できたらいいな」ということは割と多くの人が思っていますよね。内容は違えど、人それぞれに“want”ってあります。でも“want”以上に動く人って実は少ない気がしているんです。よく「“want”を“have to”に変える」と言うのですが、「〇〇したいではなく、〇〇しなければならない」、そう思うとみんなが頑張れるんですよ。誰かからやらされているのも嫌だし、やりたいって思うだけで動かないことも嫌だし、どう動いていくかということがすごく大事だなと感じていますね。
仕事って人生の中で最も長い時間じゃないですか。それなら楽しんだほうが人生が楽しくなる。つまらない仕事はしないと決めています。

楽しいという基準は自分が能動的かどうか

楽しいという基準は何で決められていますか?

-自分が能動的かどうかですね。やらされていると楽しくないじゃないですか。自分がやりたいと思って“want”が“have to”になれば、「やりたい」という前提がある。使命感を感じられている状態は一番自分にとって健康な状態ですよね。

プロジェクトを達成することを思い描いた時に気持ちが上がってくるのでしょうか

-達成したときに価値が大きいものがいいなと思っていますね。もちろんゴールが思い描いたようにならない時もありますけど、それによって問題点が見つかっていく。先ほど、「大事なことは問題提起すること」と言いましたが、アイデアって価値がないんですよ。行動することによってアイデアが可視化されます。そのときに問題点が見えてくると解決ができます。どんどん動いていくことによって問題点も可視化しやすくなる。そういった発見がきっと次の建築にも活かされていきますよね。そもそも満足しないので、「もっとこうできる」、「もっとこうしたい」ってことがどんどん生まれてくるんですよね。

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谷尻さんの建築には固定観念を壊したり、再定義するようなものが多いと感じています。そういう発想、考え方は日頃のどういった姿勢から生まれるのでしょうか

-多くの人が思い込んでることの中にも、決まりきっていないこともたくさんあるじゃないですか。
例えばテレビとかメディアを見ていると、昨日までみんながいいと思っていた人が一瞬にして掌を返されることも実際にありますよね。そういうことが起こるのが社会というか。では本質的にその人のことを見ている人はどれくらいいたんだろうかと考えるんです。
たとえば仲間外れにするって行為も、子供の頃は「みんなが仲間外れにするから仲間外れにする」なんてことがありますよね。でも、その人が自分にとっては親友になる可能性があるかもしれないので、「周りが言ってるから」という判断基準で決めていくということ自体が本質的じゃないなと。自分にとって目の前にいる人はどんな人なんだということを一度考えたり、そういった本質的なこと考える姿勢を習慣化するようにしています。

今日の異端は未来の歴史

本質的なことを考え行動に移すと少数派になることもあります。それを貫く真の強さは昔から備わっていましたか

-僕だって昔は友達に流されて誰かを仲間外れにした経験もあるし、そのときのモヤモヤした感じは記憶としてあります。本当にこれでいいのかなと考えて、それがだんだん行動に変わっていったという。

その積み重ねが建築業界のなかで新しいことに取り組む強さにもなっていったのでしょうか

-今日の異端が未来の歴史になっている話ってよくあるじゃないですか。異端と言われたとしても現在形で異端なだけで、未来ではそれが標準になるという可能性があるわけです。歴史を振り返ればそれは全てに言える。野菜を食べることだって今は一般的になっていますが、野菜は毒かもしれないという時代もあったわけじゃないですか。誰かが一歩を踏み出すことによって歴史が塗り替えられていく。なので周りを気にするというよりは自分が信念を持って行動できるかどうかということの方が大事かなと思いますね。

昔と今では考え方も違いますか?

-全然違います。昔は人からどう見られているかということも気にしていました。ですが、自分がこうなりたい、こうありたいという思いがあれば別にどう見られてもいいじゃないですか。昔は緊張しやすかったのですが、緊張する根元を突き止めた結果、僕も人からどう見られているかということしか気にしていなかったんでしょうね。それを変えるためには人のことよりも自分がどうありたいかの方が大事だなと。何が自分にとって大事なのかという価値観が変わっていったんだと思います。

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自己投資や体験を通して発見していく

美意識はどう磨かれていますか

-普段から自分の足で見にいくことが大事なんじゃないでしょうか。建築だけでなくアートもそうですし、体験しないと身にならないと思って
います。
例えば一泊30万円のホテルを作ってほしいと言われても、一泊30万円のホテルなんて泊まったことがない人の方が多いですよね。わからないことに30万円の値段はつけれない。ですが、同じ場所に10万円と30万円のホテルのどちらかを作るとしたら、30万円のホテルの方が事業主にとっては利益が高いわけで、「そのためにこうした方がいいよ」と言える設計者と言えない設計者だったら、どっちの方が仕事できるかという話じゃないですか。30万円のホテルに泊まったことがないとその感覚はわからないので、自分の足で体感しに行く。それから自分が30万円を払ってもいいと思えるホテルを作る。自己投資です。
そこでもし価格の決め方がイマイチな時はアドバイスもできた方が信頼されますよね。発注元の言いなりに仕事をするのか、提案性を持って仕事するのかは自分の経験がものを言うので、自己投資は重要だなと思います。

建築についてはまだまだ発見はありますか?

-あります。以前、洞爺湖の古くなった小屋にストーブを突っ込んでサウナ小屋にしたことがあったのですが、サウナに入って、目の前の湖に飛び込むと最高に気持ちがいい。それっていくらお金を払ってもできない体験ですよね。「その場所でしかできないこと」というのはすごい豊かだなと思いますし、「その場所でしかできないこと」が作れると他と比較されないので人からも求めてもらえます。それが僕のいくつかある会社のうちの一つ「絶景不動産」だったりサウナ事業の考え方に結びついていますね。体験を作ることは大事だなと最近思っています。

制約はクリエイティビティの源

谷尻さんの建築は、デザインと機能性と遊びを全て併せ持っているなと感じています

-建築には機能という制約もあるし、予算という制約もあるし、クライアント的な制約もある。そういった制約がいい方に作用して考えられますね。自由だとクリエイティビティって生まれないですよね。サッカーで手が使えたらつまらないじゃないですか。手が使えないというルールがあんなにもクリエイティブな世界を作り出してる。制約というのはクリエイティブの源だと思いますね。
僕はキャンプが好きなのですが、キャンプも制約しかないじゃないですか。全てが工夫の連続ですよね。キャンプで作るカレーの美味しさは三つ星レストランにも勝ると思っています。

谷尻さんには決まった発想法があるのでしょうか

-それがわかったらもっと出るんでしょうね(笑)。一通り過去の歴史を辿ってみたり、その場所のことを調べてみたり、会社であればその人の思想や、その会社が生まれるまでの歴史を聞いたりとか、それぞれ思いがあるのでそれをカウンセリングするような感覚です。そこからアイデアが生まれるように考えていきますね。

思考力を培うために必要なことは

-考えることしかないんじゃないでしょうか。もはや過去に正解だった多くのことが意味を持たない世界になっていますし、考えられることの価値がより高まると感じています。みんながどうしたらいいのかわからない不安定な社会情勢の中では自分で考えて行動できる人の方が強いですよね。

思考をする際には作品などから影響を受けるのでしょうか

-作品ももちろんそうですが、文字を作った人ってすごいなとか文字という概念を作った人すごいなとか。作品というよりもいろんな考え方にインスパイアされてますね。周りにいる人からもたくさんの影響を受けてます。建築でも新しい方法や新しい材料作ったりしていきたいなとは思っていますね。

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THULEを選ぶ理由、そして選ばれる理由

物のこだわりはありますか

-こだわりというのか、持ってるものは黒ばかりですね。選ぶ基準も機能重視というわけではなく、デザインで選んでるところが大きい気がしています。例えば洋服も、着ることだけを求めるならファストファッションのブランドを着ればいいわけです。ですがファストファッションブランドの服を買わない人もいる。そういった人から選ばれる服は、着ること以外の機能を持っているんですよね。美しいとか、自分が着ていてテンションが上がるとか、それもデザインによって生まれる一つの機能なんです。僕自身もものを選ぶときはデザインを重視していますね。

THULEを知ったきっかけは?

-キャンプに行くためのカーキャリアを探すところからスタートして、いろいろ見た中で一番良さそうだと思ったのが最初のきっかけです。自転車のサイクルキャリアも僕が知らない間に妻が買ってました(笑)。

THULEの良さはどういったところでしょうか

-主張をそんなにしないところではないでしょうか。物の主張が強すぎると他との相性、バランスが悪くなるケースがあります。THULEのデザインはそういう意味で合わせやすい。だから選ばれるんではないかと思います。THULEのカーキャリアを選んだときも、車との相性などを考えながらTHULEのものを選びました。

THULEのChasmシリーズをお使いいただいてます。キャンプではどのように使われてますか?

-Chasm(キャズム)シリーズは撥水加工がされているので車の上に詰めるのがいいですよね。カバンは濡れたりしてしまうので車の上に詰めないとこれまで思っていたんです。なので仕方なく車内に積んでいました。荷物が多いので車内がいつもぎゅうぎゅうの状態でキャンプに行っていたのですが、雨の日でも上に積めることで車内が広く使えて嬉しいです。容量とサイズにも種類があるので、キャンプの用途によって使い分けられるのも嬉しいところです。もし車に積むときにもサイズ別に分けられるので車載がしやすいですし、ダッフルとしてだけでなくリュックにもなるおかげで持ち運びも簡単で助かります。

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これからも“want”を“have to”にして
アクションし続ける

今後の展望や目標は

-やりきることじゃないでしょうか。不満を持ち続けること、飽き続けること、もっとこうしたいって思うこと。キャンプ場も作りたいですし、tectureはまだ情報量が少ないので、過去の情報も全てデータベースにして日本一の建築系のプラットフォームにしたいです。これからしてもみたいことはたくさんあります。