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Thule Magazine vol.13 スタイリスト平 健一Kenichi Taira

2003年からスタイリスト・シガアキオ氏に師事し、2007年に独立。雑誌・広告・アーティストなどのスタイリングの他、ブランディングやコラボ商品のプロデュースなどを手がける。近年は、セレクトショップのディレクションやプロデュースにグランピングや住宅展示場、車メーカー、インテリアスタイリングのプロデュースなど、ファッションの枠を超えたディレクションやアドバイザーとしても活動の場を広げている。1980年6月24日山形生まれ。

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独立独歩。
一番のライバルは自分。

生い立ちから今のお仕事に至るまでの経緯を教えてください

-学生の頃は実家が大工だったということもあって、地元の工業系の高校に通って建築を学んでいました。地元が山形なのですが、その頃から東京には何度か遊びに行っていて、憧れもあったし住んでみたい気持ちがありましたね。何せ洋服が好きだったのもあって、それなら東京の学校でファッションを学ぶのが手っ取り早いと考え、18歳で文化服装専門学校に入学を決め上京しました。文化服装学院時代はスタイリスト科でした。当時憧れていた先輩スタイリストさんがたくさん卒業している学科でした。卒業間際はまわりのみんなは就活していて就職が決まっている状況だったんですが、僕は遊んでて当時フリーターみたいな感じで。高円寺に住んでいたこともあって、古着が好きだったので高円寺の古着屋でアルバイトしました。同時期にスタイリストの祐真朋樹さんが好きで、履歴書とか手紙を幾度となく出していました。1年半後にやっとアシスタントを募集することになったとの事で連絡をいただき、採用してもらったんです。でも、3ヶ月でクビになってしまいました(笑)当時アシスタントの先輩が本当に仕事が出来る方々で、最後クビになった時は「もう少し社会勉強した方がいいよ」って言われました。
今となっては当たり前にできる仕事で関わる方々への気配りも、当時は社会人経験もなく、右も左もわからなかったのでまったくできませんでした。それが理由でクビになってしまったんです。

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-その後にハッスルという事務所に入り、シガアキオさんのアシスタントに就きました。3年と10ヶ月の間勉強させていただき、27歳の時に独立して今に至ります。
その時は今みたいなアウトドアのスタイリングはまったくやっていなくて、事務所の繋がりでPOPEYEやフイナムの立ち上げ、GO OUTも創刊前から、出版社と関係があったのでランドネにも携わらせていただきました。そのあたりからアウトドア系の雑誌のお仕事が増えて行きましたね。元々、アシスタントの時から友達とよく登山をしていて、独立してからもしょっちゅうその友達と登山やフェスに行っていました。それが仕事につながった感じですかね。今となっては、アパレル以外のアウトドアギアのオファーもくる。クルマ関係のCMオファーも多くて、ハウスメーカーの仕事なんかもやってます。とにかく幅が広いオファーを頂いていてありがたいですね。

なぜスタイリストの道に進んだのでしょうか

-姉が昔からファッションが好きで、中学生時代には姉の影響で当時流行っていたデルカジブームにハマりました。高校時代は映画も好きで、当時「日輪の翼」っていう小説家、中上健次さんの作品がドラマ化されてNHKで放映されていたんです。その時の主役が本木雅弘さんで、スタイリングを北村道子さんが担当されていたんです。当時から北村道子さんのスタイリングが大好きで、最初は北村道子さんのアシスタントに就きたかったんです。衣装の作り込みをされていたのを見て、後を追う形で衣装作りのスタイリストをやりたいと思っていました。それがきっかけで文化服装学院に入ったんです。その当時はスタイリストブームだったこともあって、雑誌にはたくさんのスタイリストの方が出ていて憧れました。POPEYE、ASAYAN、Boon、MEN’S NON-NO、CHECKMATE、STUDIOVOICE…当時出ていたファッション誌は全部チェックしていましたね。今みたいにネットが発達していなかったので、雑誌にしか情報がなかったんですよね。だから全部見ていました。
僕は北村さんに憧れて作り込みのスタイリストの仕事も何度かしましたが、監督の意向を踏襲した衣装というのは商業的で、結果的に監督の作品になってしまうんですよね。自身のオリジナルなスタイリングをしたいと思ったときに、「だったら自分で監督になって、ディレクションもして、スタイリストもすればいいんだ」と腑に落ちたんです。それからは制作からディレクションまでなんでもやりました。
結局、基本、全部自分でやりたかったんですね。
そういえば、ソニア パークさんの仕事の姿勢や考え方とかも好きでしたね。失礼かもしれないですけど、洋服だけって面白くないじゃないですか。売るものはペットボトルでもよくてソックスでもなんでもいいんです。“そのモノをかっこよくする”という行為が好きなんです。“モノ”自体をスタイリングするのもそうですし、空間というか、全体の見え感を作りあげる行為が好きなんですよね。
制作からスタイリングまで丸投げで依頼していただくお仕事なんて、本当にありがたくて嬉しいです。

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アウトドアの魅力や最近インパクトがあった仕事

-アウトドアの魅力って、SUPとか自転車、スキー、登山もそう。すべてやっていて楽しさと爽快感とか、達成感があるじゃないですか。同時にそこについてくるのがアパレルとかギアなんです。昔の自分の身近にあったものがPatagoniaとかDanner、NIKEのACGやPRO TREKなんですよね。学生時代からそういうものを普段のLevis 501や702などに合わせていました。結局アウトドアで使えるものって日常的に使えるんです。
L.L.Beanのトートバックみたいな、時代を経ても変わらないモノやヘビーデューティーなモノ、ブランドの真髄を感じられるモノが好きなんですよね。スーツ文化も好きなので西洋服装史を勉強もしたこともあって、他にも医者、コック、工事現場、消防士とか、それぞれ職業に対して意味のある洋服ができている。それがファッションになったって流れが面白い。意味があって生まれたアイテムの中にファッション性を見いだす行為が好きですね。

最近やって面白かったアウトドアの仕事は、UNITED ARROWSさんのkoti(コティ)とか、平屋のような裏方に回った仕事が楽しかったですね。10月13日から新宿伊勢丹のメンズ館1階で2週間開催されたVITAL MATERIAL(ヴァイタル マテリアル)さんという化粧品会社さんとフイナム主催の「SOTO and NAKA」というポップアップストアのディレクションなどのお手伝いをさせていただきました。イエの中で使うもの、と、ソトで使うものという視点でアイテムをセレクトしています。
平屋はギアが多いんですが、今回の「SOTO and NAKA」では、本格的アウトドアアパレルからファッションからギアまで展開します。イベント用にガレージブランドさんとコラボしたり、イラストレーターの方と共にモノづくりをしたり、色々細かな仕込みは大変ですが、とても楽しいです。
このイベントではムービーの演出、モノのセレクト、ディレクションまでをさせていただいているのですが「SOTO and NAKA」というテーマなだけに1つの画面を2つに分けて家の中のシーンと、外のシーンを組み合わせる見せ方を取り入れました。同じモデルさんがコーヒーを飲むという中身は同じなのですが、それが“ソト”と“ナカ”という演出を同時に配信するという、楽しい動画になりました。この動画はフイナムで配信します。(詳細はこちら)

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アウトドアブームや業界は今後どうなっていくと感じられてますか

-業界内では終わってしまうんじゃないかという危機感があるんですが、僕は終わらないと思っています。コロナの影響でキャンプなどの間口が広くなって、いろんな方が入ってきてくれましたが、コロナが明けたらこれまで行けなかった方がさらにたくさん来ると思っています。アウトドアファッションももっと身近になって、ブームが終わることはないだろうなと感じています。コロナが終わってよりアウトドアとの距離が近くなるようなイメージですね。他にも、僕も好きな「ゆるキャン△」という作品や、ドラマの監修をやらせていただいた「ひとりキャンプで食って寝る」というドラマなど、ああいう作品から来る方もいるんです。そういったエントリーユーザーの方がまずは有名なブランドから使い始め、それから「ガレージブランド」と言われるものを知り、使い始める。そういう流れが続いていくと思います。

THULEの製品を使ってみた感想はいかがでしたか

-Thule Chasm 90Lは容量がとにかく入る。他社にないこのオレンジのカラーリングが良いです。バックパックとして背負う紐が取り外しができるのもすごい便利。だいたいこの手のものは背負いの紐は取れなくてポケットにしまうだけだからしまったときにかさばってしまう。仕事上、この容量だと、撮影道具(ギア)をパッキングすることが多いし、オートキャンプだとめちゃくちゃ重いんですよ。そうすると背負うことは重すぎてほぼ不可能で…。リュックとボストンで使い分けられる2イン1デザインが良いですね。
しかもウェービングテープが付いているので、焚き火をするときのグローブとかシェラカップとか、すぐ使うものにカラビナをつけてぶら下げておけます。開口部も広いのでたくさん物を入れてもすぐに取り出せる。
あとはギアだけでなく、スタイリストとして衣装を入れるのにも便利。僕はロケの現場が様々なので、ラックで洋服を搬入できないケースが多くて、そんな時にこのバッグに2つ折りにした洋服を入れて搬入します。あとはこのバック自体がコンパクトに収納できるケースが付いているので、行きの荷物が少ないときは70Lで出かけて、帰りに荷物が増えたらコンパクトに収納しておいた90Lを広げてしまってしまえば持ち帰りも楽です。出張に行く時にはこのバックにビニールかけて送り状を貼って発送してしまいます。わざわざダンボールに荷物を入れて送るより、出張先ですぐに開封できるし、ダンボールも無駄にならない。エコですよね。特に車では行けない離島の仕事の時にそうしてます。
Thule Chasm Backpack 26Lはコンパートメントがたくさんあってしっかりと作られていますね。とにかく使い勝手がいいです。筆記用具、メガネ、PC、書類とモノごとにケースに入れる必要がなく、全部そのまま入れることができて考えられた作りになっていますね。
Chasmシリーズは90Lにはギアを入れて、70Lには衣装入れて、バックパックは打ち合わせ道具を入れてって感じで、仕事には完璧なセットです。

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モノを選ぶ基準はありますか

-パっと見たときのデザイン性で選ぶ物が多いですね。元々THULEにはキャリーケースのイメージを持っていて、無骨でかっこいいと思っていました。それでTHULEを選びましたね。選ぶ基準はスニーカーとか洋服と同じですね。キャンプギアもデザインから入ることが多くて、使って見てから使い心地を判断することが多いです。THULEは誰でも使いやすいと思いますよ。

今後の展望がありましたら教えてください

-やったことのないことをやってみたいですね。飲食店とか、全く違うジャンルをやってみたいです。町づくりはやるんです。地方のとある小さい町の町づくりで。ユニフォームデザインもやってましたが、もっと上流のお店作りから始める飲食店は面白いだろうなって思っています。ユニフォームデザインと言えば、横浜のGUNDAM FACTORY YOKOHAMAのスタッフさんの7種類のユニフォームデザインもやったんです。実はそういうおもしろい仕事もやっていて。スタイリングもそうなんですが「この商品をどういう風によく見せたいか」だけなんです。それがアパレルなのかワークなのか車なのかアウトドアなのかご飯なのかの違いだけで。これからもそういったおもしろい仕事をしたいですね。

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